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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)220号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び同四の冒頭の主張中、本願考案と引用例に記載された考案とは、本願考案のものでは透孔は組立て後も連通しているのに対し、引用例記載の考案においては、組立て後は挿通孔による連通が遮断される点で構成に差異があることは、当事者間に争いがない。

二1 引用例に、絶縁板7によつて電磁弁取付基体20のコイル端導出用開口部4内に固定される中空管状の脚部材6と、該脚部材6の端部に電気的に接続されるように一端が半田付け65された励磁コイル23と、上記電磁弁取付基体20と脚部材6との間に介装されていて上記励磁コイルに使用される導線の径よりも大きい直径の挿通孔51を有する(引用例の第4図(別紙第五図)の挿通孔51を参照)ゴムなどの弾性ブロツク5とを備えていて、上記励磁コイル23を収容するカバー27内の空間とこの空間に対して締結後は上記挿通孔51による連通を遮断される上記脚部材6の内部とを、上記半田付け65とブロツク5によつて外部に対し密封せしめた口火安全用電磁装置の考案が記載されている(以上につき、別紙第四図ないし第六図参照)ことは、当事者間に争いがない。

2 成立に争いのない甲第二号証(実公昭五三―四三五六七号実用新案出願公告公報、引用例)によれば、引用例に記載された考案についての実用新案登録請求の範囲の欄には、「取付基体20に………(中略)………(形成された)小径凹部41に、中心に挿通孔51を有し圧縮により該小径凹部41内を密封し得る絶縁材料製の弾性ブロツク5を嵌装し、………(中略)………挿通孔51を通してコイル引出部3を引出し、………(中略)………絶縁板7を該段状凹部底面に圧着して固定することにより前記弾性ブロツク5を前記小径凹部41内で圧縮した口火安全用電磁装置。」(甲第二号証一頁1欄二〇行から三三行)との記載があること、また、考案の詳細な説明の欄には、「この種装置においてはガス漏れを阻止する機能を多重に備えることが望ましいものである。………(中略)………この考案の装置は、従来の装置を改良して上記の要望にこたえたものである。」(同一頁2欄三〇行から三四行まで)、「弾性ブロツク5はゴムなど絶縁性弾性材料から成り、自由状態で第4図(別紙第五図)に示すように小径凹部41の深さよりやや大きい程度の厚みを有し、小径凹部の凹穴に密に嵌挿できる大きさに作られ、中心部にコイル引き出し部を挿通する挿通孔51を有する。」(同二頁3欄一九行から二四行まで)、「コイル引出部3は脚部材の中心を通つて導かれ、該脚部材6の先端を円頭状に絞つて、この部分に半田付65(第2図(別紙第四図))される。」(同二頁3欄三八行から四〇行まで)、及び、「この実施例のコイル端導出部を組立てるには、第4図(別紙第五図)に示すように小径凹部41にコイル引出部3に嵌装された弾性ブロツク5を挿入し、脚部材6を固定した絶縁板7を重ねて、押え板8によつて全体を押えると共にこの押え板を開口端凹部内に固定すればよい。………(中略)………第2~第4図の実施例においては、押え板8………(中略)………を絶縁板7上に重ねて押圧すれば第2図(別紙第四図)の押え板8は平板状に変形して、第2図(別紙第四図)のように絶縁板7を段状凹部42の底面に圧接する。その結果、弾性ブロツク5を小径凹部41内で強く圧縮する。ここで取付基体の開口部周縁をかしめれば、上記の状態で全体が固定される。………(中略)………かくして弾性ブロツクの上下面は脚部材のかしめ部64とリベット部の外側かしめ端25とに密着し、それぞれの絶縁板接合部と取付基体接合部とを気密に閉塞すると共にコイル引出部3と弾性ブロツクの挿通孔51との間隙も密封される。」(同二頁3欄四一行から4欄一九行まで)との記載があることが認められる。

3 右1及び2の事実によれば、引用例記載の考案において、自由状態での弾性ブロツクの挿通孔51の直径はコイル引出部3を挿通することができる大きさであるが、コイル端導出部が組立てられた状態においては、弾性ブロツクは強く圧縮されて、コイル引出部3と弾性ブロツクの挿通孔51との間隙は密封されるものであることが認められる。したがつて、引用例記載の考案における弾性ブロツクの挿通孔の直径は、自由状態でコイル引出部の直径より大きく、組立てられた状態において強く圧縮されたときにコイル引出部と挿通孔の間隙が収縮し密封される程度までの大きさであることを要することは明らかであるが、右挿通孔の直径がコイル引出部の直径よりどの程度まで大きくてもよいかは明らかではないものといわなければならない。

4 当事者間に争いのない請求の原因二の事実によれば、本願考案は、台座とポイントとの間に介装されていて、励磁巻線を挿通させるため該巻線の径よりも大きい直径の透孔を有するゴム質の気密保持用パツキンを備えているものであることは明らかである。

5 成立に争いのない甲第三号証ないし甲第七号証(甲第三号証は本願実用新案の実用新案登録願願書、同願書添附の明細書及び図面、甲第四号証ないし甲第七号証は手続補正書)によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には、右4の趣旨の記載の他、「ポイント15は中空管状構造であつて、一端はその中に巻線を導入する際その線径に対して十分な径で開口しておりまた他端では巻線との接続及び外部との密閉が行われる。従つて従来用いられた巻線と外部との間を気密化するためのパツキン等は不要となり、巻線の挿入が容易となるので、組付コストが安くなるという利点がある。」(甲第五号証二頁九行から一七行まで)との記載があり、本願願書添附の図面中の第2図(別紙第一図)には、第一の実施例において、中空管状構造のポイント15の開口した端部の外周に気密保持用パツキン10が嵌着されているように組立てられた状態が図示されていること、他方、本願願書添附の図面中の第6図(別紙第二図)、第11図、第12図及び昭和六〇年一〇月二五日付補正書により補正された第8図(別紙第三図)には、第二ないし第五の実施例において、中空管状構造のポイント15の開口した端部の先端に気密保持用パツキン10が装着されるように組立てられており、気密保持用パツキン10が有する励磁巻線を挿通させる透孔の直径は、巻線の径よりも大きいがポイント15の開口部の内径よりは小さいように図示されていること、及び、本願明細書及び図面には、右以上に透孔の直径の下限についての記載がないこと、が認められる。

6 右4、5及び一の当事者間に争いのない事実によれば、本願考案においては、組立てられた状態においても、気密保持用パツキン10の透孔と励磁巻線との間隙は密封される必要がないので、透孔と励磁巻線との間隙を密封する必要があることによる透孔の直径の上限の限定はなく、したがつて、本願考案における気密保持用パツキン10の透孔の直径は、少なくとも励磁巻線の直径より大きく、気密保持用パツキン10が台座とポイント15との間に介装されることができる程度までの大きさであることを要することは明らかであるが、右の限定以上に透孔の直径を励磁巻線の直径よりどの程度以上大きいものとするかの下限は明らかではないものといわなければならない。

7 ところで、前記甲第二号証ないし甲第七号証によれば、本願考案における「気密保持用パツキン」、「透孔」、「ポイント」、「励磁巻線」、「台座」は、引用例記載の考案における「弾性ブロツク」、「挿通孔」、「脚部材」、「コイル引出部」、「電磁弁取付基体」にそれぞれ該当するものと認められる。

右事実と前記1ないし6に認定判断したことに基づき、本願考案の用語例により、本願考案と引用例記載の考案における気密保持用パツキンの透孔の直径の大きさを対比すると、次のとおりであることが認められる。

即ち、その上限は、引用例記載の考案では、組立てられた状態において、強く圧縮されたときに励磁巻線と透孔の間隙が収縮し密封される程度までの大きさであることを要することは明らかであるが、励磁巻線の直径よりどの程度まで大きくてもよいかは明らかではないのに対し、本願考案では、組立てられた状態において、気密保持用パツキンの透孔と励磁巻線との間隙は密封される必要がないので、励磁巻線の直径との関係で透孔の上限が限定されることはなく、気密保持用パツキンが台座とポイントとの間に介装されることができる程度までの大きさであれば足りる。したがつて、励磁巻線の直径が同じであるとすれば透孔の上限は、本願考案の方が引用例記載の考案よりも大きいということができる。

これに対し、その下限は、本願考案及び引用例記載の考案共に、励磁巻線の直径より大きいことであり、本願考案のものの下限が引用例記載の考案のものの上限より大きいことはもとより、本願考案のものの下限が引用例記載の考案のものの下限よりも大きいことも認められない。

したがつて、原告主張の、気密保持用パツキンの透孔への巻線の挿入が極めて容易であつて自動機等による大量生産が可能であり、その結果、組付けコストが安くなるとの効果は、本願考案の気密用パツキンの透孔の直径が引用例記載の考案のものの気密用パツキンの透孔の直径の上限よりも大きい場合においてのみ奏せられる効果であるにすぎないから、本願考案において当然奏せられるものではないのである。よつて請求の原因四1の主張は採用することができない。

三 引用例記載の考案では、コイル端導出部を組立てるのに、コイル引出部の先端を半田付けした後に弾性ブロツクを圧縮して押圧固定する作業手順を採用しているので、大量生産の工程では、電磁弁取付基体を固定するための治具とは別に、半田付けをするのに脚部材6がみだりに動かないようにするための固定治具等が必要となるが、これは、組立て工数を多くし、製作コストを上昇せしめるという欠点を伴うこと、及び、これに対し、本願考案では、気密保持用パツキンに設けられた透孔は組立て後も連通しているのであるから、コイル端導出部を組立てるのに、台座にポイントを固定した後巻線の半田付けを行う作業手順を採用することができるので、引用例記載の考案に比べて組立て工数が少なくて済むという効果を奏するものであることは、当事者間に争いがない。

しかし、右のような本願考案の効果は、本願考案では透孔は組立て後も連通しているのに対し、引用例記載の考案においては、組立て後は挿通孔による連通が遮断される構成の差異によるもので、後記四において判断するように、単なる設計上の変更にすぎない本願考案と引用例記載の考案の構成の差異に対応して生ずる効果の差異にすぎないと解するのが相当であるから、右のような効果は、格別の効果ということはできない。

四 本願考案と引用例に記載された考案とは、本願考案のものでは透孔は組立て後も連通しているのに対し、引用例記載の考案においては、組立て後は挿通孔による連通が遮断される点で構成に差異があることは、前記一のとおりである。

ガス安全器用等の電磁弁において、引用例記載の考案のように、挿通孔等による連通が遮断されてカバー類の内の空間と外部との間に弾性ブロツク(パツキン)類と半田付けという二重の密封体を形成すること、及び、本願考案のように、透孔類が組立て後も連通した状態で密封体を形成することが、いずれも本件出願の出願前、周知技術であることは、当事者間に争いがない。

そうすると、本願考案は、引用例記載の考案が採用した、組立て後においては挿通孔による連通が遮断されてカバー類の内の空間と外部との間に弾性ブロツク類と半田付けという二重の密封体を形成するという周知技術に換えて、組立て後も透孔が連通した状態で密封体を形成するという別の周知技術を採用したものということができ、引用例記載の考案のように二重の密封体を形成するか、本願考案のように一重の密封体を形成するかは単なる設計変更にすぎず、本願考案と引用例記載の考案が同一であると認定することを妨げる相違点とはならない。本件審決が、「このような相違は単なる構造上の微差とみるべきものであり、これを考案としての相違点とは認め難い。」と認定したのも以上と同じ判断を示したものと認められる。

二重の密封手段を形成することが引用例に記載の考案の必須の構成要件の一つであり、また、一重の密封手段を形成することが本願考案の必須の構成要件の一つであることを理由に前記のような判断をすることができない旨の原告の主張は、出願者により考案の必須の構成要件とされている事項であつてもそれが周知技術である場合があり、その周知技術に換えて別の周知技術を採用することは単なる設計変更にすぎないと言い得る場合があるところ、本件はその場合であることは前記のとおりであるから、採用することができない。

五 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

一体化された絶縁固定用パツキンを介して台座の背部空所内に固定された中空管状のポイントと、該ポイントの端部に電気的に接続されるように一端が溶接された励磁巻線と、上記台座とポイントとの間に介装されていて上記励磁巻線を挿通せしめるため該巻線の径よりも大きい直径の透孔を有するゴム質の気密保持用パツキンとを備えていて、上記励磁巻線を収容する空間とこの空間に連通した上記ポイント内部とを上記溶接と気密保持用パツキンとにより外部に対し密封せしめてなるガス安全器用電磁弁。

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